父と見た最後の花火

カミュ

2012年11月25日 23:10




夏の思い出の中にある花火より、

私はきゅん。と

身体の芯から冷たい夜に咲く花火の方が

好きだったりする。


その花火大会にはいつも、

大好きな人とのデートや、友人との思い出ではなくて

父との思い出がある。




「めぐちゃん、パパと花火見に行かない?」


親よりも、友人よりも、一番に彼氏との誘いが優先なお年頃な私に、

お父さんはいつも私を花火だの、海だの、プールだの、

微妙なお誘いをしてくれた。


私は今まで一度だってお父さんのことを 「パパ」 なんて呼んだことはないのに、

お父さんはいつも、自分のことを「パパ」と呼び、

そんな娘にメロメロなパパがうざったくて、私はいつも 

「行かない。」 と冷たくあしらっていた。



でも、私の心はいつも「行かない」と言ったあと居心地が悪かった。

なぜならば、父は生まれつきの目の病気のせいで、視力に障害があり、

一人では人ごみが多いところへ行くことが困難であるからだった。

父がこの世で一番好きなのは花火大会であることは

小さなころからよく知っていた。

毎年絶対、えびす講の花火大会は欠かさないことも知っていた。

でも、母も寒いところも人ごみも嫌いなので、父の誘いを断るし、

長年仕事漬けになっていた父には、一緒に花火に行くような友人もいなかった。





私が断るということは、父は一人で行くことになり、

そしてその結果、足に痣を作って帰ってくることになる。

父は決して諦めないのだ。

「一人なら行かない」 という選択肢はない。

もしかしたら事故に合う可能性だってあるし、川に落ちるかもしれなかった。

何度か実際に、一人で夜歩いていて、川に落ちて大きな怪我をしたこともあった。


夜になると、まったく暗いところが見えない、そして視界が極端に狭いというのが

父の目の病気だった。

だから父を一人で歩かせると、そういった危険もあるし、

視野が狭いため小さい子などが視界に入らず、思わずぶつかってしまったりもして

とても危なかったりする。

でも相手は父がそんなに目が不自由であることなんて知らないので、

「このおやじなんなの?!」という風に思われてしまうこともあって、

私はその度にいつも、「すみません。すみません。」と何度も謝った。

心の中で「目が悪いんです」とつぶやきながら。



父は目が不自由な方が歩くときに持つ、白いスティックを持つことを嫌がった。

出来るだけ、自分に障害があることが、人にはバレないようにしていた。

それは父のプライドだった。

私はそんな父のプライドを中々理解出来ないでいた。

障害があることを、どうして隠したいのか、、、。

「別に目が悪いことは悪いことではないし、目が悪いことをみんなが知ってくれていた方が

助けてもらえたり、ぶつかっても嫌な目で見られないと思うのにな、、、。」

でも、それには父にしか分からない気持ちがあった。

今になってみれば、父の気持ちがよく分かるけれど、幼いころの私には分からなかった。

色々な気持ちに目をつむりながら、断り続けた花火大会だけど、

父が気の毒で何度か父としぶしぶ見に行って、その度に父は

いつも赤いリックサックをしょって、

中にはちゃんと私のための防寒着と、座布団が入っていて、

「めぐちゃん、寒くない?何か買ってきていいよ」

と、いつもお小遣いをくれて、私は花火に夢中な父のために

そのお小遣いで父の好きなイカ焼きを買ってきたりした。

何がそんなに面白いのか、、、。

私はイマイチ、花火の美しさにそこまで敏感な人ではなかった。

父のように

どうしたらキラキラした瞳で花火を見上げることが出来るのか、、、?



そして三年前のえびす講花火大会。

私は妊娠中だった。

まさか、あの花火大会が、父と見る最後の花火大会になるとは

思っていなかった。


父はいつものように、赤いリックをしょっていた。

いつものように、私のための防寒着と、座布団を取り出して。

同じように、イカ焼きを食べた。

隣には、結婚を許したくない娘の彼氏も一緒だった。

でも、父は必死に、彼のいいところをぽつり、ぽつりと認めてくれたりして、

私たちは冷たい空気に鼻を赤くしながら、

ただただ夜空に打ち上げられる花火を見つめていた。




私はいつも不思議だった。

父は目が悪いのに、花火がどうしてこんなにも好きなのか。

父の目から、この花火は一体どんな風に見えているのか。


そして三日前にあった花火大会。


私はそんな父との最後の花火大会を思い出しながら、

当時おなかの中にいた娘と、

そして父が結婚を認めたくなかった彼と、そして大おばあちゃんと、

四人で夜空を眺めていた。


最後の最後で、

父との思い出がよみがえって

涙が溢れて止まらなくなってしまった。


涙がいっぱいになった目からうっすらとぼやけて見えた花火を見て

私は今まで見上げてきた花火の中で

一番美しいと感じた。

まるで花火の色彩の中に自分の心が同化してるかのような、、、

そんな感覚だった。



父が見ていた花火は、もしかしてこんな世界だったのかもしれないと

その時思った。


帰り道、

おばあちゃんに、父との花火の思い出の話をした。

「お父さんのこと思い出して、涙が溢れたでしょう?」

おばあちゃんの言葉に、声が震えて返事が出来なかった。

「わたしも、病室でおじいちゃんと最後にみた花火を思い出したよ。」


人それぞれの思い出の中に、大切な人との花火が存在していて、

そしてあの夜、そんな思いでと共に夜空を見上げていた人が

沢山いたのかもしれないなと思ったら

私はまた泣けてきた。


そして、今日の思い出も、またいつか花火と共によみがえるのかもしれないと思ったら、

なんだかとても貴重な時間を過ごしたんだなって

みんなのことが、愛おしくてしょうがなくなったんだよ。




ありがとう。






























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