雨が、今にも降り出しそうなほど灰色の雲は分厚く
遠くの方で雷が太鼓を叩く音がしていた。
私は急いで娘の保育園のお迎えに車で向かっていた。
雷が大嫌いな三歳の娘。
今頃、怖くて震えてるんじゃないか。
教室の窓から、顔をのぞかせて私を待ってる娘の顔が浮かぶ。
早く迎えに行ってあげなくちゃ。
そんなことを思いながら、ハンドルの向こうに広がる茶臼山の空に目をやった。
北の空は灰色の分厚い雲が覆いかぶさってるというのに、茶臼山の真上は
光が神様の指先みたいに差し込んでいて
とてもやさしい夕焼けの色が、雲の隙間から流れていた。
車内にかかっていたやさしい女性の歌声とそれは見事に溶け合って
さっきまで急いでいた私の心がふと静まるのが分かった。
保育園の駐車場は案の定混んでいて、私はスピードを落とし、ゆっくりと脇に停車した。
すると、黄色い帽子をかぶった年中さんくらいの男の子が、ひとりでうろうろ歩いてるではないか。
あれ?お母さんどうしたんだろう?
こんな混み合う駐車場で、子供が一人で歩くなんてとても危険。
ハラハラした気持ちでその子を見つめると、その子も私に気が付いた。
その男の子の瞳が、不安そうでいて、それでいてどこかわくわくしているのが分かった。
まわりに危険がないかどうかだけ気を配って、私はその子に微笑んだ。
すると、傘をさして小さい子供を抱っこしたお母さんが慌てふためいて走ってきて
「どこにいるの?ゆー君!どこ?」 と 叫んでいた。
その子の母親だ。
その声はとても力強く、そして瞳は少し潤んでいた。
男の子の姿を見つけると
「もう!!勝手に行っちゃだめだっていつも言ってるでしょう!!」
とその子を思いっきり叱っていた。
そしてその子はお母さんに手を繋がれ、ごめんなさいという声と共に、少しだけにんまりしていた。
なんでだろう。
私はとても暖かい気持ちに包まれて
一瞬泣きそうになった。
見つけてもらえて良かったね。って思った。
そして、そんなお母さんと男の子のやりとりが
とってもとっても愛おしものに思えた。
見上げた茶臼山の空は、やっぱり美しくて
心のけがれをすべて洗ってくれるような心地よさがあった。
それは子供のころ見た あのどこまでも赤く雄大な夕焼けの感動にとても近かった。
もう、大人になった私には感じられないかと思っていた。
やっとこ車が停められたので
慌てて娘を迎えに教室に向かう。
こっそり窓から様子を伺うと
楽しそうに走り回ってるわが子と子供達の姿が見えた。
なんだ、雷怖くなかったんだね。
よかった。
よかった。
娘のお気に入りのイチゴ柄の傘と、一回り大きい私の傘を並べて
私は靴を脱いだ。
お母さんなんだな。私も。
そんなことを思ったんだよ。